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動産担保を上手に使うための基礎知識

資金調達には、保有資産の担保化が不可欠です。不動産は担保として最もよく利用されていますが、地価下落などの影響で資金調達余力が細っています。ここでは、動産担保活用の基礎知識と最新動向をみていきます。

日本の全法人企業が保有する土地は約160兆円、有価証券は約120兆円に上り、すでに担保として活用されています。約170兆円の売掛債権については、後述するように、信用保証協会の保証制度が創設されています。

一方、約300兆円も保有する建物.機械設備等や、約100兆円の在庫(平成13年度法人企業統計)については、一部で担保化が行なわれているものの、それほど活発ではありません。

しかし現在、法制審議会では動産譲渡担保における公示制度の整備が議論されており、近い将来の法制化が確実視されています。

ここでは動産担保を上手に使うための基礎知識を解説します。
物権と債権の区別動産と不動産の区別について

民法は「土地とその定着物を不動産とし、そのほかの物を動産とする」(民法86条1項、2項)と定めています。定着物というのは事実上、建物を意味します。平屋建て工場のコンクリート床面に固定された大型機械も定着物ではない、という判例があります。

それゆえ、不動産とは土地・建物、動産はそれ以外の物となります。そして不動産の権利移転公示制度は登記(民法177条)、動産の権利移転公示制度は引渡しです(民法178条)。

また、動産や不動産を含む物権と債権の区別ですが、物権的権利(所有権や抵当権など)は、茎に対しても主張できるという特徴があります。ですから、誰にでも「これは私のものだから勝手に持っていくな」と言えるわけです。

一方、債権は債務者に対してのみ主張できる権利です。あくまでも特定債務者への請求権なので、見ず知らずの人に対して、「私は○○という債務者に100万円貸しているから、返済されるまでは私以外に○○から回収をするな」などという権利はないのです。

動産担保を可能にする質権と譲渡担保

動産担保の歴史は古く、動産の占有を移転して担保化する「質権」は、日本でも「質屋」として明治以前からありました。

ただ、現在の民法は、この古い質権をそのまま制度化したため、後述するように、質物の占有を明確に移転する必要があり(民法345条)、工場の機械類や、出荷前の在庫商品に質権を設定するのは困難です。

そこで、動産の「譲渡担保」を活用する例が多く見られます。譲渡担保とは、目的物の「所有権」を、担保の目的で担保権者(債権者)に移転し、もし支払いができなくなれば、債権者が所有者として目的物を売却して債務弁済に充てる、というものです。

この場合には、質権のように占有移転は要件になりません。

特に最近では、日々製造されて増え、一方で出荷により減っていく流動的な在庫商品一切を「集合動産譲渡担保」として担保設定する例が見受けられます。

動産担保の普及を阻む問題点とは

多くの企業の不動産は、すでに担保提供されていることが多く、また最初から不動産を持たない中小企業が少なくありません。そうした場合に、残っている大きな資産である動産を担保化できれば、資産を有効に活用できます。

しかし、動産担保には次のような問題点があります。

●質権を巡る問題
質権は、前述のように民法345条で「代理占有」が禁止されています。代理占有とは、所有者が、形式的な占有移転後に、別の人の代理人として占有することです。

つまりは元の所有者の占有が継続します。そのため質権は必然的に占有移転を伴い、企業の担保としてはあまり活用できません。

●譲渡担保を巡る問題

これに対し、譲渡担保など質権以外の担保権は、代理占有が禁止されません。ただし、譲渡担保権者が担保権を取得したことを第三者に対抗するには、動産の「引渡し」が必要になります(民法178条)。これを「対抗要件」といいます(不動産の場合は登記が対抗要件になります)。

そこで、形式的に動産を占有移転して引渡しを行ない、以後は設定者が担保権者の代理人として動産を占有する「占有改定」(民法183条)によつて、譲渡担保権者は対抗要件を備えることになります。まさに前記の代理占有の典型例といえます。

しかし、動産の実質的な占有が担保設定者の手にある以上、さらに別の者に、その動産を譲渡担保する危険性があります。つまり、二重の譲渡担保です。また、担保設定者が別の者に本当に譲渡してしまうことも考えられます。

この場合、取得者は民法192条により「即時取得(※参照)」する可能性が出てきます。なお判例上、明確な占有移転がない占有改定による取得では、即時取得は成立しないと考えられています。

このように、占有改定で引渡しを行ない、それにより譲渡担保の対抗要件とする場合には、権利の安定性に欠けるという大きな問題点があるのです。

この問題点のために、動産譲渡担保、特に在庫商品についての集合動産譲渡担保は、なかなか普及しませんでした。



※即時取得とは

 即時取得は、動産を平穏かつ公然と占有する売主等(前の占有者)が所有権をもっていると信じた者に対しては(過失がない場合)、たとえ前の占有者が無権利者であっても所有権を与えるという法制度です。

 この制度の背景には、動産には不動産と違って登記のような明確な所有者確認手段がなく、占有者と信じざるを得ない状況があります。

動産担保融資を巡る最近の法改正の動き

平成14年12月12日、総合規制改革会議による「規制改革の推進に関する第二次答申」が出されました。そのなかに「動産・債権担保法制の整備による資金調達の円滑化」が盛り込まれました。

これを受けて法務省は、動産譲渡公示制度を新設する方針を決め、平成15年9月10日に法制審議会に諮問、同年10月15日に法制審議会に「動産・債権担保法制部会」が設置されました。

そして平成16年2月18日の第五回部会で「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱中間試案」が出されました。

審議会議事録、中問試案は、いずれも法務省のホームページで閲覧できます
http://www.moj.go.jp/SHINGI/


新制度の検討内容とポイント

現在検討されている動産公示制度は、担保目的の動産譲渡を登記制度の対象とするものです。

従来、融資を受ける企業が原材料.機械・在庫製品などの動産を担保とする際、外形上判然としない占有改定によって対抗要件を備えていたために、即時取得の恐れなどを排除できなかったことを改善するためです。現段階の中間試案では、複数の案が並行して出されています(※参照)。

なお、新制度では債権譲渡担保でも、従来の債権譲渡登記制度が改められます。債権担保の実効性を高めるため、債務者が特定しない将来債権の譲渡について、債権譲渡登記によって第三者対抗要件を具えられるようにする予定です(この債権譲渡登記をしている旨を法人登記簿(商業登記簿)に記載するかどうかは検討事項)。

これにより、将来発生する予定の売掛金債権についても、範囲等を特定して集合債権として登記し、安全に譲渡担保とすることができるようになります。

※中間試案の主な改正・検討内容

●ほぼ確定の事項

  • 法人が行う動産譲渡を登記制度の対象とし、個人の動産譲渡は含まない
  • 法人が行う動産譲渡は、民法178条の規定にかかわらず、登記をもって第三者に対抗することができるものとする


●未確定またはさらなる検討を要する事項
  • 登記がされた担保目的の動産譲渡は、当該登記が、他の担保目的の動産譲渡が占有改定により対抗要件を備えた後にされたものでも、この動産譲渡の譲受人に対抗することができるものとする
  • 概括的な登記情報は誰にも開示し、全部の登記情報は利害関係者にのみ開示する
  • 動産譲渡登記がなされている譲渡人の法人登記簿(商業登記簿)に概括的な登記情報を記載する


売掛金を担保にする信用保証協会の保証制度

動産担保融資を円滑化する制度としては、平成13年12月に売掛金を担保として信用保証協会の融資保証を受ける「売掛債権担保融資保証制度」が発足しました。

この保証制度は、現行の債権譲渡登記を前提としています。

従来、債権譲渡登記が資金繰りに窮した企業の最後の策として用いられることが多く、この登記がある企業が警戒される、という弊害がありました。そこで、債権譲渡登記に信用保証協会の名前が入るようにして、一般的な融資保証であることを認知させることを狙っています。

一方、動産を担保にした信用保証制度の拡充については、経済産業省が検討を開始し、平成17年の中小企業信用保険法の改正を目指しています。

動産担保融資をうまく活用するには

動産担保融資が受けやすくなるような、登記制度の法制化の動きがおわかりいただけたと思います。しかし現在のところはまだ、動産譲渡担保の対抗要件は、民法178条の「引渡し」です。

それゆえ、前述のように融資側には常に二重担保の危険、第三者への売却の危険が伴います。したがって、確実性の高い不動産担保融資よりも活用しづらい面は否定できません。

しかし、資金繰りに苦しみながらも高額な機械類や価値の高い在庫商品など、資産性の高い動産を眠らせている企業が少なくありません。そうした企業は、法整備前でも積極的に動産資産の活用を検討すべきでしょう。

以下、動産担保融資活用のポイントをみていきましょう。

①所有権を確認する

動産譲渡担保を設定する際の留意点としては、まず、機械類などがリース物件か買取り物件かを確認する必要があります。長期のリース契約を結んだ機械類や、特にその付属部品などは、どこまでがリース物件かわかりにくいケースも多々あります。

また、同様に、機械に他人の所有物が入っていないかにも注意が必要です。たとえば、射出成形の機械のなかには「金型」があり、それが製品の注文主の所有であることがあります。注文主の製品製造のための専用部品が、注文主の所有ということもあります。

このような場合、譲渡担保契約を結ぶ際に、担保設定の範囲を明確にする必要があります。後で譲渡担保物件のなかに、リースや他人の所有物が混ざっていることが判明すると、設定者側の信用に関わることがあるでしょう。

また、原材料を注文主から無償提供されているときは、完成品の所有権が最初から注文主にあると考えられる場合もあります。その場合には、完成品の在庫商品に譲渡担保を設定できなくなります。このような在庫品の所有権についても確認が必要です。

②範囲を特定する

特に在庫商品を担保化する場合(現在のところは集合動産譲渡担保)、その範囲の特定の仕方に留意する必要があります。

場合によっては、融資に対して担保価値が大きくなりすぎないよう、在庫商品の種類で対象を特定したり、倉庫内の場所によって特定するなどの工夫が必要です。

③その他の留意点

製品によっては「ブランド」「商標」の問題があります。金融機関が担保にとっても、結局のところ競売が認められないことがあり、動産損保化の大きな障害になりかねません。

たとえば、いわゆる「ブランド商品」の下請製造メーカーが倒産し、債権者が集合動産譲渡担保に取っていた在庫商品を勝手に売ってしまい、ブランド側とトラブルになった例があります。

また、製造品がある種の部品で、そこに注文主の「特許」や「実用新案」が織り込まれている場合(たとえば半導体など)も注意が必要になります。

在庫商品が集合動産譲渡担保になっていても、売却によって注文主が使用許諾していないライバル企業がその部品を使用することになれば、大きな問題になってしまうと思われます。

このように特に在庫商品の譲渡担保には、担保権の実行段階で様々な制約があります。とはいえ動産担保化は、今後、中小企業の資金調達の有力な手段となり得ます。眠った資産である動産類の活用を積極的に考えてみてはいかがでしょうか。

※動産担保融資を巡る新しい取組み

最近、動産公示制度の制定をにらみつつ、新しい在庫の担保化モデルが登場しています。

 以下に紹介するのは、中古自動車販売会社が、中古自動車を担保に銀行から融資を受けるものです。
 まず、中古自動車販売会社と銀行が協定し、別会社(財産を持たせるだけの特別目的会社=SPCといいます)に対して銀行が融資します。
 別会社は、その資金で本体会社から中古自動車を購入し、その中古自動車が別会社ぐるみで丸ごと銀行の担保となります。
 どのように運用されるのか、詳細はまだわかりませんが、もともと自動車は動産とはいえ登録制度がありましたから、即時取得の対象たる動産にはなりにくいものです。ただし、学問的には未登録状態の自動車は即時取得の対象になるので、車検切れのまま展示されている自動車は対象となります。
 また、別会社の活用で管理がしやすいという利点もあります。たとえば別会社の実印を銀行が預れば、勝手に担保物を処分されにくくなります。本体会社の実印を銀行が預かることはできませんが、SPCの別会社なら不可能ではないでしょう。

 今後、こうした取り組みが増えると予想されます。
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