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工業所有権について

Ⅰ 工業所有権の内容と種類、税法上の取り扱い

工業所有権とは、特許権・実用新案権・商標権・意匠権の総称であり、税務上は無形固定資産として減価償却資産とされています。

それぞれの内容・権利期問・法定耐用年数・根拠法は次表のとおりです。

 内容権利期間法定耐用年数根拠法
特許権自然法則を利用した技術に高度で産業上有用な発明20年8年特許法
実用新案権物品の形状・構造・組合せに関する考案6年5年実用新案法
商標権商品やサービスに使用される文字・図形等のマーク10年更新可能10年商標法
意匠権独創的で美的な外観を有する、物品の形状・模様・色彩のデザイン10年更新可能7年意匠権法
Ⅱ 技術上の「ノウハウ」との違い

 類似した知的財産として「ノウハウ」があります。ノウハウとは法律上の定義はありませんが、税務通達に「特許権・実用新案権・意匠権の目的となっていないが、生産その他事業に関し繰り返し使用し得るまでに形成された技術的な考案又は生産方式及び生産方式までに至らない程度の秘訣、秘伝その他特別に技術的価値を有する知識」と記載されています。

 税務上、ノウハウの買取りをした場合は、法的な権利取得でないので繰延資産とされ、効果の及ぶ期間(原則として5年)で償却されます。

Ⅲ 特許権を取得した場合の税務上の取り扱い

 特許権の取得は、自己の研究開発により取得する場合と、外部から購入する場合で税務上の扱いが異なります。なお、特許権以外の他の工業所有権の取得の場合も、特許権に準じた取扱いとなります。


(1)自己の研究開発により取得した場合

1 支出した試験研究費の未償却残額

 ・自社の研究開発により特許権を取得した場合、それまでの研究開発費は繰延資産としての試験研究費に計上されているか、全額費用計上されていると思われます。法人税法上も試験研究費は、随時償却が認められています。

 ・税務上は、未償却の試験研究費の残額は特許権の取得価額に算入すべきとされています。

2 職務発明により従業員に支払った特許権の承継対価

 ・企業内の研究者が行った発明は発明者に帰属するため、発明者から特許を受ける権利 の承継又は特許権の専用実施権の設定を受ける必要がありますが、承継又は設定に際して支払った一時金は特許権の取得価額に算入することとなります。

3 特許権の出願料、特許料その他登録のために要する費用

 ・持許権の取得価額に算入しないことができます。


(2)他者から買い取って取得した場合


1 他者の保有する出願権を取得した場合

 ・出願権の買取り価額を特許権等の取得価額として、特許権の耐用年数で減価償却します。

  その後、その出願権に対して特許権の登録があった場合、出願権の未償却残額が特許権の取得価額とされます。

2 他者の保有する特許権を取得した場合

 ・特許権の買取り価額が、特許権の取得価額となります。


3 特許権の出願料、特許科その他登録のために要する費用

 ・自社開発の特許権と異なり、必ず特許権の取得価額に算入しなければなりません。

(3)他者が有する特許権の案施権又は使用権を取得した場合

 特許権を他者から購入した場合に準じて取り扱われます。

 実質的に特許権を取得した場合と同様であるからです。


Ⅳ 工業所有権の減価償却の注意点

1 減価償却方法は残存価額をゼロとした定額法に限定されます。

2 減価償却の開始時期は取得の日となり、取得の日=事業の用に供した日と判断されます。
  したがって、未使用の特許権等についても減価償却が可能となります。

3 他者が有する実施権又は使用権を取得した場合、契約期間が法定耐用年数より短い場合、契約期間を以て耐用年数とすることができます。


Ⅴ クロスライセンス契約と課税上の留意点

 クロスライセンスとは、特許権等の保有者同士が、それぞれに保有する技術について、お互いに無償で提供し合うことをいいます。
 税務的に考えると特許権等の使用料を相殺していると認められ、両建て経理することが必要かどうかという問題となります。
 法人税法上の取扱いは、強いて両建て経理は必要とされていません。しかし、一消費税の上では、課税対象となる旨の取扱いとなっており、法人税と異なっています。
 消費税が相殺されるため、原則課税の場合には問題は生じませんが、簡易課税方式や輸出免税・国外取引の場合は問題が発生することとなります。
 課税対象額の算定に際しては、特許権等の時価算定等が必要となり、留意が必要です。


Ⅵ 個人が受ける発明報奨金等の課税上の取り扱い

(1)職務発明による特許権や特許を受ける権利の承継の対価
 わが国では特許法35条において、企業内の研究者が行った発明は、発明者に帰属すると定められています。

 役員・従業員が職務として発明した場合、「職務発明」とされますが、特許を受ける権利は発明者に帰属し、企業は通常使用権が無償で認められているに過ぎず、特許が第三者へ流出するおそれもあります。

 このため、各企業は特約を定め、次のような対応を行っています。

 ①予め会社規則等により、特許を受ける権利を使用者が承継すると定める。この場合、発明者は承継に際して「相当の対価」を受ける権利を有しています。

 ②予め会社規則等により、使用者に対し専用実施権を設定・する旨を定める。この場合にも、発明者は設定に際して「相当の対価」を受ける権利を有しています。

  この「相当の対価」を巡る裁判が、最近の青色発光ダイオード訴訟等に代表される職務発明、に関する訴訟です。

  発明者個人が受け取る相当の対価に関する課税上の扱いは、次のとおりです。


 ①権利の承継に際し、一時に支給される金額は「譲渡所得」

 ②承継後の実績により継続して支給される金額は「雑所得」

 ③専用実施権の設定により支給される金額は「雑所得」



(2)工夫・考案等の報奨金

 事務もしくは作業の合理化、製品の品質の改善又は経費の節約等に寄与する工夫・考案等(特許権等の登録を受けるに至らないものに限る)をした者が支払を受ける報奨金等に対する課税上の扱いは、次のとおりです。

 ①工夫・考案が通常の職務の範囲内である場合は、「給与所得」

 ②その他場合は、「一時所得」

 ③工夫・考案等の実施後の成績により継続して支給される場合は、「雑所得」
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